40平米の物件が市場に急増? 住宅ローン減税拡大で何が起こる

公開日 2020.12.21

自民・公明の両党は10日午後、2021年度の税制改正大綱を決定した。新型コロナウイルスの影響から、景気対策やコロナ後の経済成長を見据えた制度が目立つ内容となっている。

不動産関連の税制では、住宅ローン減税特例が2年間延長されることが決まった。中でも注目なのが、対象となる建物の要件が緩和される点だ。現行では床面積50平米以上の建物が対象だが、改正後は40平米以上に引き下げられる。

対象となる物件が増えることで、不動産業界では住宅ローンを使って投資用物件を購入する不正が増加するのではないかという指摘もある。また同時に、40平米台の物件の需要が増え、価格が高騰するのではないかとの声も聞かれる。実際、新税制下でこうした影響は生じるのだろうか。複数の専門家や投資家に話を聞いた。

 

■21年度の税制改正、住宅ローン関連に注目

今回の税制改正では、住宅ローンやエコカー減税の延長、固定資産税の負担など、コロナによる経済への影響を考慮した制度が目立つ。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)の促進や、脱炭素社会に向けた投資を促す制度など、コロナ収束後の経済成長を見据えた制度も盛り込まれている。

不動産に関連するものとして挙げられるのは、冒頭でも述べた「住宅ローン減税の延長」だ。主なポイントは以下の2点。

1.特例措置の延長

住宅ローン減税とは、住宅ローン借入残高の1%(年上限は原則40万円)を所得税から控除する制度。適用期間は通常10年間だが、2019年の消費増税時、これを13年とする特例措置が設けられた。この特例は2020年末までに入居した物件のみが対象となっていたが、今回、これを2022年末まで延長することが決まった。

2.床面積要件の緩和

上記の特例を受ける際の床面積要件が、現行の50平米から40平米に緩和される。近年、単身世帯が増加するなど世帯のあり方が変化、それに伴って物件へのニーズも多様化していることを受け、緩和措置が取られることとなった。ただし、50平米未満の物件では1000万円の所得制限を設ける。

上記住宅ローン減税の特例延長により、コロナ禍で落ち込んだ住宅需要を喚起する狙いがある。

なお、上記特例措置の対象となるのは、消費税率10%が適用された物件のみであり、基本的には新築が対象となる。ただし中古物件のうち、不動産業者などがリフォームやリノベーションを施したうえで販売する、いわゆる「買い取り再販」の物件などで消費税率10%が適用された場合は緩和の対象となる。また新築の場合は2021年9月、中古であれば同年11月までに契約しており、2022年末までに入居している必要がある。

また住宅ローン減税における「1%」の控除については、見直しが行われる予定だ。近年では低金利が続いていることから、1%未満の金利で住宅ローンを利用している場合、ローンの金利よりも控除額が上回るケースも想定されるためだ。

 

■面積要件緩和で物件価格への影響は?

今回の税制改正は、不動産市場、とりわけ40平米前後の物件価格にどのような影響をもたらすのだろうか。業界歴20年以上で、不動産鑑定士の浅井佐知子さんは「特に都心の実需向け物件で、市場の活性化が起こる」と分析する。

「面積要件が緩和されれば、新築されるマンションの広さも40平米を意識するようになるでしょう。今までより面積の小さい物件が増えることになります。そうなれば実需層が購入を検討する物件の価格帯は下がり、これまでより買いやすくなる。特に土地の値段も高く、物件価格自体が高騰してしまう都心のマンションではこのような動きが顕著になり、物件の取引が活発になると思います。著しく需要が高まれば、40平米程度の物件価格も上がっていくかもしれません」

また浅井さんは、実需の不動産市場が活性化すれば、不動産投資市場にも少なからず影響が出ると考えていると話す。

「早々にローン返済を終えたり、転勤によって貸し出したりなど、40平米のマンションが賃貸物件として供給されるケースは出てくるでしょう。今後2~3年で、という話ではありませんが、1LDK程度の物件はやや供給過剰になる可能性もあります」

供給が多くなることで、入居が決まりづらくなる、賃料を下げざるを得なくなるなどの可能性も考えられそうだ。

 

■不正利用の増加懸念する声も

面積要件の緩和は、不動産会社にとっては販売ターゲットの拡大につながる。都内で区分マンションを中心に売買仲介を行う不動産会社は、「(面積要件の緩和は)実需向け物件には追い風になるので、ありがたい。単身者がワンルームではなく、少し広めの物件も検討できるようになる。我々としても提案できる物件の販売単価が上がるため、営業成績も上がる」と歓迎ムードだ。

一方で、住宅ローン減税特例の対象が拡大することで、投資用物件の購入に住宅ローンを不正利用するケースが増加するのではないか、という懸念もある。

前出の不動産会社の担当者は、「住宅ローンを使った投資、いわゆる『なんちゃってスキーム』を推奨、販売するような業者は今でも一定数存在します。アプラスの問題が話題になってからはそうした話を聞くことも少なくはなりましたが、床面積要件の緩和をきっかけに再燃する可能性はあるのでは」と話す。

現役の銀行員で宅地建物取引士でもある旦直土氏も、「(不正利用が)増加する可能性は考えられる。住宅ローン減税特例の適用範囲が拡大し、今までより価格が低い物件も減税の対象となれば、自己資金はないが、不動産投資で資産を築きたいと夢見る層にはチャンスと映るかもしれない」と話す。

また銀行としてもある程度警戒はしているものの、「根本的な対策は難しい」というのが実情のようだ。

「全国転勤のある正社員が住宅ローン債務者の一定層を占めることも事実。転勤を機に、賃貸物件となっている案件は相応に存在している。銀行としても、きちんと転居の理由を聞くことができれば、特段の問題にはしていない。借入時の入り口の段階で、借入人の属性等をしっかりと審査するという基本行動を徹底するしかない」という。

 

■区分投資のプロに聞く、これからの投資戦略

住宅ローン減税の対象が広がることで、賃貸から購入に踏み切る層が増えて賃貸需要が減少するのでは、という見方もある。

これについて、中古ワンルームを59室所有し、無借金で家賃年収3600万円を実現した「区分のプロ」芦沢晃さんは次のように話す。

「40平米ぐらいの都心近郊の区分物件は3000万円台で販売されることが多いため、例えば年収600万円程度のサラリーマンであれば賃貸ではなく購入、と考える人はいるかもしれない。ローンを組んだとしても、毎月の返済額は8万円前後ですから。ただ、転勤の多い方や、とくに都会では持ち家に縛られたくないという理由で賃貸に住み続ける人も少なくないはずです」

また、同じ区分投資でも、闘う土俵によって影響の大小に違いがあると芦沢さんは言う。

「私が投資しているのは家賃5万円程度、広さ15~20平米ほどの物件です。40平米クラスのものより安い市場なのでほどんど関係がなく、影響はないと思っています。また日本は非正規雇用の急増で年収300万円台の人も多くいます。そういう方々のための区分マンションの賃貸需要を考えれば、そこまで大きく減ることはないと考えています」

また40平米クラスの物件が住宅ローン控除の特例対象となれば実需層の買い手が増えるため、「投資家としては出口が取りやすくなるかもしれません」と芦沢さんは言う。

 

今後、40平米程度の物件が市場に増える可能性はありそうだ。価格や賃貸需要への影響は未知数だが、物件を所有するエリアの新築案件などはチェックしておいたほうがよいかもしれない。

前述したとおり、床面積要件の緩和を契機に住宅ローンの不正利用を勧めてくる不動産業者が増加する可能性は十分に考えられる。居住用と偽って住宅ローンを利用し、投資用物件を購入したとなれば、金融機関から一括返済を求められる場合もある。

また、こうしたいわゆる「なんちゃってスキーム」は個人の与信を使うことになる。後日、アパートローンで収益物件を購入する場合にというリスクがあることも知っておくべきだろう。

なお今回の税制改正大綱は今後閣議決定を経て、来年3月までに関連法案の成立を目指す。